イベントリポート:世界一のコーヒーを学ぶ会 with 2016 World Brewers Cup Champion

イベントリポート:世界一のコーヒーを学ぶ会 with 2016 World Brewers Cup Champion

イベントリポート:世界一のコーヒーを学ぶ会 with 2016 World Brewers Cup Champion

Release Date: Aug 10, 2016

勝つために実践したこととは?

必修サービス編

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まず、粕谷さんは必修サービスとオープンサービスで異なる抽出器具を使用したと語る。

理由は評価の際に求められるものが違うため。必修では「エアロプレス」を、オープンでは「HARIO V60」を使用。

持論として、クリーンで後味が長く甘く続くコーヒーが良いコーヒーと考える粕谷さんだが、特に重要だと語るのは「クリーンさ」という部分。

必修サービスではどんな豆だったとしても、クリーンに出さないといけないので、そのルールで勝つためには「出したくない味やフレーバーを絶対に出さない」という事が重要とのこと。妥協は絶対にしないと熱く参加者に伝える。

そこで使ったのがエアロプレスだった。検証の結果作られたレシピは驚くほどシンプルな方法。
まず豆を荒く挽き、粉を多めに使って少なめに抽出量する、あとはお湯で割って濃度を調整するという事。例えば30gのコーヒー豆で、120gのコーヒーを90秒で素早く抽出。

調整方法を聞くと、3つ同じカップを作り、あらかじめ決めておいた湯量の基準をベースに3回トライしながら狙った濃度に調整していくというもの。

一見簡単に聞こえるが、世界で評価される「濃度」を知り、そこに調整できるようになる事が重要だという事を繰り返し語っていた。

 

オープンサービス編

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繰り返しになるが、オープンサービスではV60を使用。

この競技ではコーヒーの他に、プレゼンテーションやサービスも評価対象になるため、競技時間10分=600秒の短い時間の中で気をつける部分が50以上あるが、それらは基本的には通常の営業中でも心がけないといけない部分だと語る粕谷さん。

 

ジャッジに対する気配り

ジャッジである前にゲストと捉えて、笑顔で迎え入れて、緊張を解きほぐし距離感を近くする。
当然ジャッジも、世界一を決める大会に緊張しないはずがなく、その緊張をほぐすのも競技者の重要な役割だと語る。

重要な事は繰り返し伝えて、提供されるコーヒーに対する期待値を上げていく。
また、細かい部分としてはジャッジが話をメモする際に書き終わるのを待つ等、常にゲストをもてなすという姿勢がポジティブな評価につながる。

 

自分のスタンスとテーマ

「I’m not a Farmer, I’m not a Roaster, I’m just Barista, and Brewer」と冒頭で伝える事で、自分のスタンスを伝え、その上での今日のテーマに入っていく。

コーヒー業界に自分はどう貢献できるかという事の答えをテーマにする事が大切。
今回は「46メソッド」というこれまでに無い新しいアプローチのコーヒーメソッドを伝えにきたとジャッジに伝えた。

 

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プレゼン中の所作

落ち着き、堂々とした雰囲気で安心感を与える。

ゆったりと大きなジェスチャーでわかりやすく、時にはゆっくり、時には興奮したりて、笑ったり、真剣になったり、ストーリーに抑揚をつける事が重要。リラックスしてほしい部分と、真剣に聞く部分にメリハリが生まれ、世界感に引きこまれていく。

一見あたりまえの様に見えるが、競技者はプレゼン台本を読み上げる必要があるので、気を抜くと棒読みになってしまう事がある。

粕谷さんの場合はファイナルに向けて、もう一度台本を作った時の気持ちに立ち返り、台本の中の “本当に伝えたいこと” を再確認した。これをする事でプレゼンに感情がはいり、いいメンタルでプレゼンをする事ができたと語る。

ジャッジの手元には豆の情報は書いてあるボードが置いてあるが、そこに記載するフレーバーは当日手書きで記入する。

味の変化については淹れたてと冷めてからの味をピンポイントに説明する事で、ジャッジが集中して味を取ってくれるが、反面その通りにならないと減点になるため、勝負にでないといけなかったと語る。

この部分については、競技開始の30分前まで何度も味を取り、プレゼンを練り直していた。

また、細かい気配りとしては、ケトルや使用後のフィルター、ドリッパー等、ジャッジに見せたくないものは前に置かない事を一貫し、片付けの際はまとめて1度の作業で運べるようにするなど、動線を綺麗にする事も重要なポイント。

モノが綺麗に使えているかという点も評価の対象になる。

所作やセッティングについては、細かい部分も含め前の競技からアップデートし、決勝に向けて調整を行っていく話をしている姿に「冒頭で話した10分=600秒で気をつける点が50個以上」というのがいささかオーバーでは無いことを実感した。

 

46メソッドについて

注ぐ湯量を前半40%、後半60%に分け、前半で酸味と甘さのバランスを構築し、後半で濃度を調整。豆は荒く挽き、熱湯でドリッパーに勢い良くお湯数回に分けていれるだけの、シンプルなメソッドを考案。

アプローチは必修サービスと近いが、前半40%の中で2回に分けてお湯を投入する際、前後の湯量の違いによって、酸味と甘味のバランスを調整できるのが特徴。前半が多いと酸味が強く、後半が多いと甘みが強い。

また、後半60%も分ける回数によって濃度を調整できるため、特別な技術を必要としなくとも湯量と回数を気にするだけで、誰でもおいしくコーヒーを淹れられるようにという思いから考案にいたる。
お湯の投入の際、落ちきってから次のお湯を注ぐが、それがイノベイティブとして評価された。

「究極の職人技は職人技を誰にでも使えるようにする事」と熱く語る。
※記事後半にレシピを紹介

 

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使用豆について

Ninety Plus Coffee者の生豆を使用。焙煎はコーヒーファクトリーで行った。

Panama Sillvia Geisha (パナマ シルビア ゲイシャ)
Area: シリャデルパンド地区
Process:コールドファーメンテーション (ナチュラル)
Variety:ゲイシャ
Elevation:1,550m

 

コールドファーメンテーションとは

細かい製法はNinety Plus Coffee社の企業秘密だが、普通のアフリカンベッドではなく20℃に管理された室内でじっくりと乾燥させる方法との事。完全に乾燥するまで20〜30日間ほどかかるが、じっくりと乾燥することでその過程で特殊なフレーバーが作られる。

 

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使用した水について

硬度が高いとボディが強く、硬度が低いと薄い味わいになる。

使用豆はボディが弱かったので、ボディを強化するか、そのままを表現するか悩んだが、透き通った味わいの中にある複雑なフレーバーがこの豆本来の味だと確信し、軟水の青森県、白神山地の水を使用し、ボディを捨てることにした。

たとえセオリーから外れていても美味しければ、方法を見直す事も必要だと語る。

 

ジャッジへのコーヒー提供について

浅煎りすぎるために出てしまう生焼け味を目立たさないために温度を下げて提供。※ファイナリスト全員がやっていた
話をしながらサーバーを回してコーヒーを冷まし、3回ずつ分けて入れる事でコーヒーの温度を提供時に58〜59℃になるようにする。但し、この動作をカップすべて同じ所作を行う必要があり、毎回同じ温度で提供できるようになるまで、何度も繰り返し練習をした。

 

プレゼンで一貫して伝えている事は、温度変化に伴って味が良くなる、スーパークリーン、酸と甘みのバランスがすごく整っている、という3点。一貫性の重要性について、認識させられる解説だった。

動画の終盤、プレゼンの最後にもう一度、テーマに立ち戻ってポイントを締めくくり、感謝の気持ちを述べるシーンの粕谷さんが映る。

大会への取り組みの大変さや、精神的に追い込まれた部分、あとは純粋に楽しい10分を過ごすことができた事への感謝など、色々な感情が交じり合い、言葉が一瞬詰まるシーンに、それまでの会場の空気が変わったような気がした。

世界一になるための準備を全て出しきった瞬間がそこにあったと多くの人が感じたのではないだろうか。

 

(次ページ:大会に勝つために必要な情報、能力についての説明)

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