Release Date: Sep 19, 2018
2018.10.4:一部内容を修正しました。
コーヒーラバーたちが
プラスチック大国の日本を変える立役者になる?
コーヒー業界大手のスターバックスが2020年までにプラスチック製のストローを廃止することを発表したり、IKEAが同年までにプラ製品の販売を廃止することを発表したりと、プラスチックに対する注目が高まっている昨今、JRC(Japan Roaster Competition)と530week(ゴミゼロウィーク)代表の中村元気氏が共同主催の「コーヒーとプラスチックのこれから」が2018年9月5日100BANCH(東京都渋谷区)で開催された。
参加者は日本各地のコーヒーロースターやコーヒー関係者が中心で、定員50名のフロアはプラスチックに問題意識を持った人々で超満員となった。
プラスチックの実害とは?
当日は国際環境NGOグリーンピースジャパンの石原氏、東京農工大学で水環境保全学を研究している大垣氏、表参道にあるフレンチレストラン・レフェルヴェソンスの生江氏の三名がメインのスピーカとなり、それぞれの視点からプラスチックごみについての現状や科学的分析、取り組んでいる活動などについて発表がなされた。
海を汚し、生き物を傷つける
プラスチックが海に流出している量は、毎分トラック1台分という衝撃の調査結果が出ており、私たちがコーヒーをドリップしているその間にも、世界中の海はどんどん汚染されているという。
ウミガメや海鳥たちが傷ついている動画や写真を目にしたことがある人も多いのではないだろうか。きれいな海や小さな動物たちの命が奪われているこの現状に、心を痛める人も少なくないだろう。
しかし、プラスチックの影響はそれだけではない。
人間もプラスチックで汚染されている
私たち人間は、「食物連鎖」と「便利な生活」の2つのルートで汚染がされている可能性があることが研究の結果わかってきた。
1つめの食物連鎖の仕組みはこうだ。
人間の経済活動によって、海には人体に有毒な汚染物質が複数溶け込んでいる。その汚染物質の中には油と結びつきやすい性質を持つものがあり、石油からできているプラスチックとの相性がいい。(PCB(ポリ塩化ビフェニル)など)
海を漂う間に風化して小さな破片となったプラスチックに、この汚染物質が吸着され、それを魚が誤飲する。魚のお腹に入り込んだ汚染物質は、今度は体内の脂肪と結びつき体に蓄積される。
そしてその魚を、食物連鎖の頂点にいる私たち人間が食べているのだ。
2つ目の汚染は、プラスチックに添加される添加剤だ。プラスチックの強度を高めたり、燃えにくくしたり、くっつきにくくしたりする目的で添加される。今回はそのうちのひとつであるノニルフェノールという化学物質について紹介された。ペットボトルのキャップなどにも含まれている場合がある。
東京農工大が20年前に実施した調査によると、都内のスーパーなどで販売されていたプラスチック製のコップ、皿、ラップ、ラップで握ったおにぎり、アイスの容器、その容器に入っていたアイスなどからノニフェノールが検出された。
構造が女性ホルモンに似ており、女性の場合は乳がん細胞や子宮内膜症を増加させる働きがあり、男性の場合は精子の数を減らす働きがあることがわかっている。日本では環境ホルモンとして認定され、使用の自主規制がされているが、海外の対応はまちまちだ。
輸入製品に溢れるこの国で、安全なもの・安全でないものの見分けは非常に難しい。
コーヒーを愛する人々にできることとは?
リサイクルの現状
日本はアメリカに次ぐ世界第2位のプラスチック使用大国であるが、積極的にリサイクルを実施しているイメージはないだろうか?
しかし現状は、私たちの認識とは違っている。全体の23%がリサイクル(素材から素材へ)されているが、うち66%は海外に輸出されており、残りを国内でリサイクルしている。全体の8%にも満たない量しかリサイクルされず、多くは焼却や埋め立てされている状況だ。様々な要因があるが、「3R(スリーアール)」リデュース(減らす)・リユース(繰り返し使う)・リサイクル(もう一度製品を作る)にも優先順位があり、最も重視すべきは「リデュース」だ。
アイディアの共有
テイクアウトカップやふた・ストローといった多くのプラスチックが使われるコーヒー業界。提供する側・される側それぞれの目線から、自分たちがアクションできることは何なのか。
提供する側からのアプローチとして、分解されるプラスチック製品に変える、紙や麦・ステンレスなどの代替製品に変える、店内の提供には必ずグラスを使用するなどがイベント内で共有された。実際に一部の店舗ではさまざまなアプローチがなされており、顧客の反応も悪くないようだ。
そうなると代替え品には大きな期待がかかるが、*生分解性プラスチックの分解には特定の環境が必要であったり、代替え品は既存品よりも値段が高いだけでなく、清潔に保つための洗浄や管理も必要であり、多角的にコストが高かったりと、現状を変えるには一筋縄ではいかない。
*生分解性プラスチック…微生物と酵素の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解されるプラスチックのこと。
全てのプラスチックが悪ではない
子供や身体が不自由な人などプラスチックの助けが必要な人や、時と場合によりプラスチックが欠かせないシチュエーションも大いにあることも事実だ。
「習慣化された」多くの使い捨てプラスチック。環境面と健康面の2つの視点から、この1度きりの使い捨てプラスチックをどう減らしていくのかが当面の課題となる。
プラスチックを大量に使用しているコーヒー関係者だからこそ、ゲームチェンジャーになれるチャンスがあると生江氏は語る。
習慣を作っているコーヒー提供者が、その習慣を変えることで社会全体を変えることができる。習慣提供者には大きなパワーがあるのだ。
アメリカの先住民の言葉に「我々は子孫から大地を借りて生きている」という言葉があるそうだ。私たちは、どんな世界を子孫に返却することができるのだろうか。
コーヒーを片手に、一度じっくりと考えてみたい。
Text: Ayumi Kubota
Photo: Takahiro Takeuchi