CULTURE IN A CUP – VOL.1 CROOKED NOSE & COFFEE STORIES, LITHUANIA

CULTURE IN A CUP – VOL.1 CROOKED NOSE & COFFEE STORIES, LITHUANIA

CULTURE IN A CUP – VOL.1 CROOKED NOSE & COFFEE STORIES, LITHUANIA

Release Date: May 15, 2017

世界的な盛り上がりを見せるコーヒーシーンの中で、日本の喫茶文化は多くの注目を集めている。長い歴史の中で、抽出や焙煎における高い技術や多様な器具が育まれてきた。どこか西洋的でもあり、どこか日本の古い伝統も感じさ せる独特な雰囲気をもつ喫茶店。最近では、有名店で外国からの旅行者を見かけることも少なくない。

一杯のコーヒーから日本を感じられる、日本から遠く離れた場所で…こういう経験はすごく面白い。ハリオのv60やタカヒロのケトルなど、日本で創られたプロダクトにとどまらず、喫茶文化のインパクトは世界でさらに広がりを見せている。今回はヨーロッパの2つのコーヒーロースターにて、喫茶文化に対する興味やイメージについて話を聞くことができた。

 

Crooked nose & coffee stories (Vilnius, Lithuania)

リトアニアの首都ヴィルニスに位置するCROOKED NOSE & COFFEE STORIES。オーナーのエマニュエリスが、日本に滞在した際の経験と自身のコーヒーについて語ってくれました。

まず最初に、どのようにコーヒーに携わりはじめたか教えてください。

Emanuelis: 7年ほど前まで、私は広告会社に勤めていたんですが、その頃には仕事に飽き飽きしてしまって、何か自分が本当に大好きなことを仕事にしようと思ったんです。私にとって、それはコーヒーでした。

まず最初は焙煎から始めました。地元の作家に協力してもらって、パッケージにショートストーリーを書いてもらったりして。それから、だんだんカフェやオフィスにも焙煎した豆を売るようになって。その頃は、カフェを始めるよりも焙煎やコーヒーに関連したプロダクトを作るのに重きを置きたいと思っていました。オリジナルでデザインしたコーヒーカップやコールドブリューボトル、ビールをコーヒーから作ってみたり…. 色々やりましたね。

次に、コーヒーに関する知識や文化を共有する機会を作ろうと思いました。毎年、「Dark times」と名付けたカンファレンスをヴィルニスで主催しています。コーヒーを淹れるという行為はバリスタにとってだけではなく、誰にとっても多様な楽しみ方があると共有するのが目的です。プレゼンターの半数は国外からやってきています。それにプラスして、月に2回はカッピングやフードペアリングのワークショップを開いています。

そして、カフェをオープンしたのは約2年前ですよね。その前に多くのステップがあったのは興味深いですね。もし私がコーヒーにまつわる何かを始めようと思ったら、コーヒーを提供する場所がまず思い浮かぶと思います。

Emanuelis: そうですね。コーヒーを提供するのと同じように、こういった多様なアプローチも、私のコーヒーについてのアイデアや考え方を表現する良い方法だったと思います。

温かみがあって、かつミニマルなインテリアはInga Pieslikaiteによってデザインされたもの。

お店にはエスプレッソマシンを置いていませんね。ヨーロッパでは珍しいことだと思うんですが、理由はありますか?

Emanuelis: ヨーロッパではまだ、エアロプレスやハンドドリップといった、アナログな抽出はエスプレッソに代わる新しい方法だと考えられがちです。確かに歴史があり、最も一般的で広く親しまれていますが、一方でエスプレッソも100あるコーヒーの抽出方法の一つにすぎないと言うこともできますよね。もしここにマシンがあったら、ゲストはすぐにエスプレッソベースの注文をするでしょう。でも、もしマシンが見つからなかったら… ちょっとしたチャレンジなんです。私たちはメニューからエスプレッソ以外にも様々な抽出方法があることを伝えて、もしゲストが興味を示してくれれば説明をして、カウンターで抽出を始めます。こんな感じで、自然な流れでコーヒーの奥深さを共有しています。例えば同じ豆を使っても、抽出方法で味や香りが違ってくる、という面白さに気づいてもらえるんです。ここでの体験が、コーヒーにそこまで親しみのない人にとって、興味を持つきっかけになってほしいなと思っています。言ってみれば、スローなレッスンという感じです。

素晴らしいですね。私にとっては、それが日本の喫茶店を思い出させてくれました。多くの喫茶店で、コーヒーの抽出方法にまで選択肢が及んでいます。そして、淹れている様子を目の前で見ることができたりして…コーヒーそのものと同じように、とてもわくわくする時間ですよね。飲む人がコーヒーにハマっていくきっかけになることもあると思います。

Emanuelis: 一杯がどんな風に出来上がっていくのか、様々な過程をゲストに見てもらい知ってもらえるのは、作る側としてもとっても楽しいです。私自身は、サードウェーブに代表される最近のムーブメントよりもむしろ喫茶店に多くインスパイアされています。5〜6年前に、日本や喫茶文化についての本、記事に出会ってから、いつか行かないと!と思っていたくらい。

様々な抽出器具やコーヒー専用の陶磁のカップが並ぶ。

そして、ついに昨年日本に来てくれたんですよね。どうでしたか?どんなお店に行かれたんですか?

Emanuelis: 喫茶店にとどまらず、色々なお店でコーヒーを楽しみました。らんぶる、COFFEA EXLIBRIS, Bear pond espresso、それとSalmon and Trout。それから、渋谷のらいおん…あれは本当に不思議な経験でした。ホラー映画か、はたまた古い電車の中にいるような… テレポーテーションしたみたいだったなぁ。京都ではKurasu、カフェ デ コラソン、あとKAFE工船。どのお店も、独自の魅力を持っていて、印象的でした。

実際に訪れてみて、なにか感じることはありましたか?自身のコーヒーに対する考え方に対する共感であったり、似ているなあと思うこととか。

Emanuelis: 喫茶店では、一杯のコーヒーを作るためのあらゆる作業に事細かく気を配って大事にしていました。良く管理され、考えつくされた焙煎から美しい抽出の所作まで… コーヒーに対する職人的な情熱を感じました。ただゆっくりやる、ということではなく、丁寧に気を配る余白がまだまだ残っているんだと気づかされました。喫茶文化の中で、コーヒーを淹れるのは神聖な儀式のようにも感じられます。こういった気持ちや雰囲気は日本でしか体験できないものです。

”儀式”って、コーヒーを淹れる動作を表すにはぴったりの言葉ですね。

Emanuelis: リトアニアでは、コーヒーの文化自体は長い方だと思います。家にお客を呼んだ時には、お茶よりもコーヒーを出すのが一般的です。私の経験では、両親がコーヒー好きだったため、子どもの頃からコーヒーに慣れ親しんでいました。母はモカポットでコーヒーを淹れ、その時間を日常の小さな止まり木のように捉えて大切にしていました。私が日本で経験したのと同じ様に、普段の生活の中で人の足を自然と止めてしまう儀式として。私たちのゲストにとっても、ここがそういう時間を過ごせる場所になればいいと思っています。誰にとってもカジュアルで、楽しい。特別気取っていたりする必要はないんです。

焙煎についてはどうですか?なにかこだわりがあったりしますか?

Emanuelis: そうですね。焙煎の具合によっても、豆のキャラクターは大きく左右されますよね。なのでどういった特徴を引き出したいかをよく考慮します。一般的に、シングルオリジンにフォーカスしたお店では比較的浅く焙煎することが多いですが、KAFE工船のオオヤミノルさんに出会ってからは、深煎りにもすごく興味があるんです。熟練した喫茶店のロースターのように、完璧に把握できているわけではまだないんですが… 焙煎の実験を日々楽しんでいます。カフェではシングルオリジンしか出していませんが、最近オリジナルブレンドも作り始めました。ブレンドも、コーヒーの重要であり面白い側面ですね。

地元の作家によって書かれた短い物語が記されたパッケージのブレンド豆。

オオヤさんとは付き合いが長いんですか?

Emanuelis: 私が日本に行く前に、彼がリトアニアに来てくれたときからの知り合いです。ネルドリップのワークショップをやってくれました。それを引き継いで、今はCrooked Noseのメニューにも載っています。彼には強く影響を受けました。残念なことに、近年ではコーヒー文化をファッション的に捉えてしまうお店もあります。彼らは十分な知識がないまま、サードウェーブが流行っているからという理由だけで他のタイプのコーヒーを否定してしまうのです。オオヤさんは、以前は浅煎りをしていたそうなんですが、サードウェーブがメインストリー ムになり始めて深煎りにシフトしたと話してくれました。どちらが『正しい』ということはなく、流行は流行として、深煎りも浅煎りもどちらもおいしいと知っているからできることですよね。そして ”Dark roast is not dead.” この言葉は印象的です。ファッション的なコーヒーとは正反対。オオヤさんだけでなく、日本にはこういった独自のスタイルを持ったお店が他にもありました。それって実は簡単なことではないし、私が喫茶文化に魅力を感じる理由の一つだと思います。もちろん個人的な要素でもありますが、文化そのものから生まれるものでもあると思います。職人的な情熱や哲学ですね。

もし一つ選ばなければならないとしたら、メニューの中から何をオススメしてくれますか?

Emanuelis: 「Bro」で淹れたフィルターコーヒーを是非。Broは私たちの一番新しいプロジェクトで、先月(4月)にローンチしました。リトアニアの特産である木材とリネンのフィルターで作ったドリッパーです。リネンを使用することで、豆の持つ特徴をはっきりと表現することができます。また、コーヒーオイルも一緒に抽出するので、ボディの強い豆とも相性がいいです。

Bro コーヒーメーカー

地元の素材からできたドリッパー… 看板メニューですね!

Emanuelis: その通りです。ここで使っているカップも、リトアニアの陶土で作られています。リトアニアは陶芸が盛んな国で、ヴィルニスでは年に一度、大きなクラフトマーケットが開かれます。このカップは、カフェ用にミニマルなデザインにしてみました。

Emanuelis: あとは、リトアニアの伝統的なシャコティスというケーキ、ハーブティーとかも置いています。私たちは、また私たちのコーヒーは、ローカルでありたいと考えています。様々なものに触発されながら、自分たち独自のコーヒー文化を模索しています。リトアニア的なコーヒー文化とはどういう可能性があるだろう?という風に。こういった視点から、コーヒーは潜在的にクリエイティブな産業、文化であると言えますね。言語のようでもあります。言語を学べば、自分でストーリーを作ることができますよね。

すばらしいお話をありがとうございました。とても興味深かったです。

Emanuelis: こちらこそありがとうございました。最後に、私の周りの人々について追加しないといけません。ここでは素晴らしいスタッフに恵まれて、一緒に働いていて私自身とても幸せなんです。色々な人々に会って色々な話ができる、というのがカフェの一番いいところですから、是非私たちに会いに遊びにきていただけたら嬉しいです。みなさんのことをヴィルニスでお待ちしています。

 

Bro コーヒーメーカーについての詳しい情報はこちらのサイトもご覧ください。
http://crooked-nose.com/brocoffeemaker/index.html

 

Interview by Misa Asanuma (@asnm33)

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