Release Date: Jun 27, 2018
バリスタ最高峰の競技会、ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC) 2018が6月20日〜23日に World of Coffee Amsterdam の会場内にて開催された。
EU加盟国であるオランダ・アムステルダムが舞台となった本大会では、57ヶ国・地域からそれぞれのナショナルチャンピオンが集い、新たなテーマを持ってパフォーマンスを行った。
今回、会場内にて話題に上がっていたアメリカやオーストラリア、イギリスらの注目国を抑え、栄誉ある優勝を飾ったのはバリスタトレーナーとして活躍するポーランド代表AGNIESZKA ROJEWSKA (アグニエシュカ・ロジュースカ) バリスタだった。
会場で配布される公式冊子には “A woman has never won the WBC = WBCのチャンピオンに女性はいない” と書かれており、史上初のWBC女性チャンピオンという快挙を成し遂げた。
彼女のプロフィールに掲載されている競技会での戦歴を紹介すると、2015年のWBCシアトル大会、2016年のWBCダブリン大会でもポーランド代表として出場したが、両大会とも34位という結果で初戦敗退。
その後2017年のワールドラテアートチャンピオンシップで見事世界3位に輝き、その後行われた London Coffee Masters でも優勝という快挙を成し遂げ、今回に至る。
私は10年間競技会に出ていますが、最初の6年は全く結果が出せませんでした。ですが、負けてしまっても失敗から学び、少しずつ成長していけばいいんです。
と表彰式直後の興奮冷めやらぬ控え室にて彼女が語ってくれた言葉から、まさにバリスタとして挑戦の連続だったということが読み取れるし、頂点を目指して粘り強く諦めなかった先に、求めていた結果=WBC優勝を獲得することできたのは、運でも偶然でもなく必然だったのではないかと思うようになった。
一方で、競技会に出場する全てのバリスタが頂点を目指して想像を絶する努力を行っているので、そういったレベルの高い世界でスコアを付け、優勝者を競うという点においては、正解がわからない中で自分を信じて突き進むしかない非常にシビアな世界だという事も同時に感じた。
そして、同じ努力の人として、12年もの間ジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)に挑戦を続け、2017年大会で悲願を達成し、世界の大舞台に挑んだフリーランスの石谷貴之バリスタも見逃してはならない。
石谷バリスタが優勝を決めたJBC2017でのパフォーマンスで強く印象に残っているテーマが「店舗での再現性」というもの。
2017年当時、コーヒーの抽出理論を追求し、急冷用器具などの装置を使い最高級の豆の味を完璧にコントロールする傾向にあった「サイエンス的」なアプローチから一転、最高の味は当たり前に追求しつつも「お客様に提供できるもの」を目指した石谷バリスタのパフォーマンスは、とても新鮮で、とても本質を突いたものだとファインダー越しながらに感じていた記憶がある。
本大会の評価の方向性を各バリスタが知っていたかどうかはともかく、撮影の現場からパフォーマンスを見ていると、サイエンスに寄せたバリスタと、サービスに寄せたバリスタに分かれていた印象があり、サービスを重視した後者のバリスタがより上位に入賞していたように思える。
ひとつの例だが、開始時に4人のジャッジと個別に自己紹介を行い競技中に名前で呼びかけるというパフォーマンスを見せたスイス代表のMATHIEU THEIS (マチュー・タイス) バリスタの競技はホスピタリティがとても高く感じられ、サービス=接客を強く意識している印象があり、他にないアプローチでラウンド1では本大会最高スコアの548.0を叩き出した。
スコアの一般公開はWBC終了後のため、ここから先は勝手な想像の話になってしまうが、ラウンド1のトップ3に優勝したAGNIESZKAバリスタと、3位のMATHIEUバリスタがランクインしていたという点で、彼らのパフォーマンスの中にあって他にないものを発見し、自身のパフォーマンスを調整することができたバリスタがセミファイナルで大きく順位を上げたのかもしれない。
(カナダ代表COLE TORODE バリスタと、オランダ代表LEX WENNEKERバリスタがセミファイナルで大きく順位を上げている)
話を戻すと、石谷バリスタのパフォーマンスはサービス寄りのアプローチだったため、方向性としては近い中でファイナルに残れなかったことは同じ日本人としてとても悔しく感じるが、スコアの根拠については競技終了後にバリスタに渡されるスコアシートに記載されているので、どこかの機会に石谷バリスタに差し障りのない範囲で聞いてみたいと思う。
また本大会の特徴として、昨年の大きなルール変更の1つであったステーション (競技を行うカウンターテーブル2台)レイアウトの自由化を引き続き採用し、昨年のWBCチャンピオンDALE HARRIS バリスタが採用した大胆なステーションレイアウトを彷彿させる様々なレイアウトで競技が行われた。
通常の対面式だけでなく、アイランド型やV字レイアウトなど、各バリスタのテーマに沿ったレイアウトが組まれてパフォーマンスを行っていたのも、見どころの一つだった。
パフォーマンスとしては、韓国のJOO YEON (ジゥ・へヨン ) バリスタはiMacで抽出理論をモーションを見せ、アメリカのCOLE MCBRIDE (コール・マクブライド) バリスタはらせん状のガラスチューブを使ってシグネチャードリンクを作成したりと、視覚的にもサイエンスティックなアプローチだった事も印象に残っていて、そういう様々な新しいコーヒーへのアプローチに触れられるのも競技会の魅力。
プレゼンテーションを見たことがない方は 、ぜひWBC公式サイトにある動画アーカイブを見てみてください!
WORLD BARISTA CHAMPIONSHIP 公式サイト
https://worldbaristachampionship.org/
意図してなのかそうでないか不明だが、ファイナル後半の3競技がスイス・ポーランド・オランダ(開催国) の順で行われ、EU圏の各国から駆けつけたサポーターが自国サイドの観客席を埋め尽くし、ジャッジへのドリンクを提供するたびに自国の陣営から大歓声が沸き起こった。
特に開催国オランダの LEX WENNEKER (レックス・ウェンネカー) バリスタがパフォーマンスを終える頃には、オランダサポーターの数が圧倒的に増えていて、ほぼ全ての観客席から聞こえる拍手と歓声が会場を包み込んだ光景の中にいると「あぁ、これでWBCの競技が全て終わったんだ」と、言葉にし難い感情になった。
そういう一種のコミュニティの連帯感の渦のような場所で取材を行うと、当然感情移入もするし、何よりファインダー越しに見える選手は限りなく近い距離にいる錯覚すら覚え、セミファイナル、ファイナルと結果が読み上げられる中で多くの選手が一喜一憂する姿を見ると、それぞれのバリスタが背負ってきたドラマを垣間見た気にさせられるし、実際にチームの一員になったようでとても感動的だった。
ファイナルに残ったバリスタは当然のことながら皆がチャンピオンの座を狙っていて、それ以外はきっと結果に満足していなかったはずだが、自分の名前が呼ばれた瞬間にビッグスマイルで大喜びし、満面の笑みでトロフィーを受け取るシーンに潔さも感じ、バリスタ競技会の素晴しさを身近で感じることができた。
そんな様々なバリスタの熱い想いと、歓喜・落胆の声をごちゃ混ぜにしたような熱狂の中、WBC2018が幕を閉じた。
ファイナルのランキングは以下の通りだが、WBC公式サイトにはセミファイナル、ラウンド1ともに全てのランキングがスコア付きで掲載されているので、興味がある方はそちらも見ていただきたい。
ファイナルランキング
Winner: AGNIESZKA ROJEWSKA (POLAND)
2nd Prize: LEX WENNEKER (NETHERLANDS)
3rd Prize: MATHIEU THEIS (SWITZERLAND)
4th Prize: MICHALIS KATSIAVOS (GREECE)
5th Prize: COLE TORODE (CANADA)
6th Prize: JOHN GORDON (NEW ZEALAND)
Full Rankings and Scores Released For The 2018 World Barista Championship In Amsterdam
次回の大会となるWBC2019はアメリカ・ボストンで4月11日〜14日に開催される「Specialty Coffee Expo」内でWBC2019が開催される事が決まり、そこへの日本代表選手を選出するJBC2018も今年の9月にSCAJ内にて開催される。
石谷バリスタのリベンジとなるか、昨年WBCで2位に輝いた鈴木バリスタが世界を取りに行くのか、はたまた新たなJBCチャンピオンが生まれ世界に爪痕を残すのか。
Good Coffee では日本の状況だけでなく、初の女性バリスタチャンピオンとなったアグニエシュカ氏の動向を含め、世界の状況も情報が入り次第、随時お届けしていきたいと思います。
Text / Photo
Takahiro Takeuchi
Special Thanks: Saturdays New York City
NYC発のアパレルブランド。東京・神戸・名古屋・大阪・阪急メンズ東京にショップを構え、阪急メンズを除く4店舗でカフェを併設。オープン当初より、石谷バリスタがカフェ部門のクオリティコントロールなどコンサルテーションを行う。
https://www.saturdaysnyc.co.jp/
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