TALKING ABOUT ASIAN COFFEE

TALKING ABOUT ASIAN COFFEE

Release Date: Nov 2, 2018

台風が迫る2018年9月29日(土)の昼下がり、青山・国連大学中庭にて開催中の TOKYO COFFEE FESTIVAL 2018 autumn にて大手コーヒー企業とマイクロロースターによるトークイベント”TALKING ABOUT ASIAN COFFEE” が行われた。

 

バリスタやロースターなどに関するアジア人の活躍は近年勢いを増しており、コーヒー関連競技会(World Coffee Events主催大会 や Coffee Festなど)の世界大会におけるアジア人のポジションは既に確固たる地位を築いている様にも見えるが、農園に関してはどうだろう?

昨年、国内初のスペシャルティコーヒー誕生のニュースが飛び込み、日本もついにスペシャルティコーヒー生産国の仲間入りを果たし、インドネシア、東ティモール、パプアニューギニア、タイ、ラオス、台湾といったアジアの国々のラインナップに”ジャパン”が加わった事が同じ日本人として嬉しく感じる。

しかし、日本以外のアジアにもコーヒー生産に携わる熱き日本人達がおり、今回のトークイベントはまさにインドネシアに拠点を構える2つのロースターからそれぞれ現地を知る代表者が登壇し、今取り組んでいる事から今後について赤裸々に語ってもらうトークイベントとなった。

登壇したのは、キーコーヒー株式会社 佐藤圭二さんと、LIGHT UP COFFEE 川野優馬さんのお二人。司会進行を務めたのがTOKYO FMの番組でもパーソナリティを務め、コーヒー好きのMCを公言しているケリー隆介さんという豪華なラインナップ。

佐藤圭二さんは、インドネシア・スラウェシ島の自社直営農園にも赴任しており、現在はキーコーヒー主宰のコーヒー教室室長を務めるコーヒー歴30年のベテラン。対する川野優馬さんはパートナーの相原さんとLIGHT UP COFFEEを在学中に起業し吉祥寺に出店、現在では下北沢に焙煎所、京都にカフェ、バリ島にコーヒー精製拠点を構える若手のコーヒーアントレプレナーだ。

年の差は親子ほど、会社の規模も歴史も全く異なるお二人によるアジアのコーヒーの関する話はとても興味深かった。

 

 

最新技術のコーヒーと、基本に忠実なコーヒー

まずトークの初めに会場で配られた2杯のコーヒーについて話題が及んだ。
それぞれ2杯とも同じインドネシアのコーヒーなのだが、片方はスラウェシ島・トラジャ地方のコーヒーで、もう一つはバリ島バトゥール山麓のコーヒー。

トラジャの方は、キーコーヒーが4年の歳月を経て開発した新技術KEY Post-Harvest Processing® によるフリーフォッシュドのコーヒーで、コーヒーチェリーの状態で氷温帯の保管・熟成させることによって揮発性の甘みやパインのようなフレーバーが特徴的なコーヒーだ。

一方は、LIGHT UP COFFEE で6月に完成した精製所にて作られたナチュラルプロセスのコーヒー。アップルタルトのようなクッキーの様な香ばしさとコンポートされたリンゴのような甘さが特徴的。

どちらも同じインドネシアだが、品種や精製などのアプローチでここまで異なるコーヒーになると思うと、インドネシアのポテンシャルには素直に驚きを隠せない。

 

両者のトークによると、KEY Post-Harvest Processing®によるコーヒーは来たる2050年問題を視野に入れて、産地での品質向上を模索する中、野菜や果物などの品質を高めるために用いられる氷温熟成技術を収穫したコーヒーチェリー熟成のために応用したと言われ、コーヒーの品質を高める使命感に感銘を受けた。きっと1970年代に発足したトラジャコーヒーの再生プロジェクトも同じかそれ以上の熱量だった事が想像できる。

バリ島のコーヒーについては川野さん曰く「インドネシアのコーヒーでまずやるべきことは正しい精製」ということ。気候条件や気温、土壌については既に整っていて、精製技術を他の美味しいコーヒーを生産する国で行なっている方法を持ち込み、基本に忠実に行うだけでコーヒーは普通に美味しくなるという信念のもと、多いときは毎月現地に足を運び最新の精製方法を現地の農家に伝え、味の違いを農家だけでなく地元のバリスタ・ロースターとも共有する日々を過ごして作られたコーヒーなのだ。

 

 

そもそもなぜインドネシアだったのか

世界のコーヒーベルトには様々な国があり、同じアジアでも前述した通り様々な可能性を持った国がある中なぜインドネシアを選んだのか?トークを聞くとまるで引き寄せられたような「偶然」が産んだ結果だった事がわかる。

トラジャのコーヒーを遡ると18世紀に「セレベス(スラウェシ)の名品」と謳われた幻のコーヒーがあった。
当時オランダ領でコーヒーの生産を行なっていたスラウェシ島だが世界大戦の混乱の中、コーヒー産地は衰退していく。
そして誰もがその存在すら忘れていた頃に、ひと握りのサンプルからコーヒー農園復活のプロジェクトが始まった。

当時は高度経済成長期のまっただ中の1970年代。テクロノジーも今ほど進んでいない中、何もないジャングルを切り開いて山を整備し、インフラを整えてコーヒーが販売できるようになるまで、7年近くの歳月が経った。

 

そうした今となっては無謀と思えるチャレンジを乗り越え、現地のコーヒー生産者と協力し品質の高いコーヒーを生産して40年。現在ではWorld Coffee Research (WCR) と共に30種類ほどの品種栽培試験を行い、来たる2050年問題に対して、インドネシアで栽培可能なアラビカ種の発見にさらなる挑戦を続ける。
ひと握りのサンプルから40年を経てアジアのコーヒーの未来を担う壮大な取り組みへと続いている事に不思議な縁を感じる。

一方で川野さんの場合は人生で最初に訪れたコーヒー農園がバリ島だったという事だった。期待とは裏腹に農作物の一つして生産されるコーヒーを見て「特別なものではなく、生活の為に作る商品」という印象を受けたものの、その後の精製の工程に違和感を覚えたという。
当時はスペシャルティコーヒーブームの初期で、既に日本でも英語の文献や記事で農園の情報が入ってきており、そこで見た精製の様子と違った事に率直な疑問を感じ、それらを試してみたいという思いが募っていったそうだ。それがお店を始めて1年経った頃という、今から3年前の出来事だから驚きだ。

経験や会社規模の大小に関わらず、品質の高い美味しいコーヒーを生産したいという純粋な思いが、
日本から近い生産国であるインドネシアに引き寄せられたのは、ひょっとしたら必然だったのかもしれないと感じた。案外きっかけというものは、そういうものかもしれない。

 

 

世界の反応とアジアの可能性について

また、キーコーヒーがまず着手しているのがインドネシアで飲むコーヒー品質の向上だ。
これまでのインドネシアでは生産国にも関わらず品質の高いコーヒーが飲めない課題があったのを、直営ロースターと直営カフェを国内に展開し、海外のゲストが宿泊するホテルにトラジャコーヒーを提供したりして、生産国で飲むコーヒーの品質向上に取り組んだ。

現在では、さらに品質の高いマイクロロットにも力を入れており、世界に通用するカッピングスコアを持ったコーヒーの輸出にも積極的だ。アメリカ・ヨーロッパ、オーストラリアなどのコーヒー先進国では日本にも進出している某有名カフェをはじめとした各ロースターにも販路を広げ、日本以外の輸出も行っているそうだ。

ひょっとしたら海外で同社のトラジャのコーヒーを飲んだという話もコーヒー愛好家にはあったのかもしれない。

 

LIGHT UP COFFEE では6月に精製所で作られたコーヒーのファーストロットがようやく日本で届いた状況だが、これまで作ってきたコーヒーを欧米の視察時に現地のロースターとカッピングを行なった際にも高い評価をもらったそう。
川野さんにはさらなる展望があるみたいで、精製が終わったら、品種や土壌にも着手して、そして生産拠点も増やしたい。まだ出会ったことの無い美味しいコーヒーをアジアから発信したいという事だ。

どちらもアジアの可能性についてはポジティブな印象を持っており、世界に通用する強いブランドをアジアから発進するという熱い思いに溢れていました。

 

実際に、ミャンマーやインドでもコーヒーの生産が盛んになってきており、21世紀最初の国家となった「東ティモール民主共和国」では輸出品目トップがコーヒーとなり、様々な著名ロースターなどでその国名を見た事がある人も多いはず。

これからも世界におけるアジアンコーヒーの可能性について注目していきたい。
さ、コーヒーに飲みに行こうっと!

 

トアルコトラジャ
https://www.keycoffee.co.jp/toarcotoraja/

LIGHT UP COFFEE
http://lightupcoffee.com

 

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