Release Date: Dec 4, 2015
2015年12月をもってOMOTESANODO KOFFEEの原点ともいえる表参道店の閉店というニュースを聞きつけ、早速國友栄一氏(以下K)にその真相を伺うべくインタビューのお時間を頂戴しました。年末に飛び込んできたショッキングな出来事はいかに…
編集者(以下GC): 本日はお忙しいところお時間頂戴しありがとうございます。気になる真相を伺う前に、まずは國友さんのバリスタとしての経歴、経緯をお聞かせいただければと思います。
GC: 國友さんは、もともと大阪でバルをされていたとのことですが…
K: そうなんです。僕がバリスタを始めたのは約15年前になります。その頃はまだ”バリスタ”という言葉もそこまで普及していませんでした。一般の方は「バリスタって何?」っていう感じでしたね。丁度スターバックスが(大阪の本町に)できた頃です。
GC: あの頃ですね!僕は高校生で、スターバックスが地元にできて、みんなで行ってました(笑)
K: すごく新鮮でしたよね。でも僕はその頃から、アメリカのコーヒーというよりもイタリアのエスプレッソに興味がありました。イタリアンバールスタイル(立ち飲み)が日本にもあったらいいのになと思っていました。エスプレッソが飲めて、バリスタと直接会話ができて、時間によってはお酒も飲めて、フードもある…そんな場所を作りたいと思い大阪でスタートしたのが…もう13年前になります。
GC: コーヒーの文化、流行りは変化を続け、現在日本はコーヒーブームと注目されていますが、長年この業界でご活躍されている國友さんもその変化や流れを実感されていますか?特に2005年から2007年はコーヒー業界の分岐点、変化の期間だったと伺うことが多いのですが…
K: 僕が思うに、何に対してもどの世界でも、成熟に対する一定の時間軸が一緒で、コーヒーは今まさに世界的にそういうタイミングがきているのではないでしょうか。でも例えばアメリカがこうだからと日本で盛り上がっていたとしても、お客様の感覚がついてこないと全く広がらない。やっぱりお客様がついてくるそういうお店が生きていけるし、広がっていくのかなと思います。
食に対する感覚って絶対に下がっていくことはないんです。美味しいものを一度口にしたら、また美味しいものが飲みたいし、より美味しいものが欲しくなる。その成熟にかかる時間、それなりにお客様の舌が肥えていかないと業界側がいくら仕掛けても広がらないんです。
GC: 絶妙なお客様との距離感を保つことが重要なんですね。
K: 僕たちはコーヒーの世界の表現者として、人と違うこと、みんながやっていないことをやっていきたいと思うんだけれども、突っ走って進みすぎると、お客様は逆に引いてしまう。さらにお客様がついてきてくださったとしても、それに対応できなくてはダメだし、絶妙なバランスはどうしても必要です。
GC: なるほど。コーヒーシーンの変化は今後も続くのでしょうか?
K: よっぽど何かが(例えば産地災害など)起きない限り、一気にコーヒーシーンが変わってしまうことはあまりないと思います。ステップアップと変化が、今後どういう風になるかはある程度想像できるし、少しずつ見えてくるものではないでしょうか。
GC: 日本だけではなく、1月に出店予定の香港もここ数年で変化していますよね?お店の数はもちろん、バリスタやバリスタとしての働き方も…たった1年ですごく変化があったように感じます。バリスタという職業についてどう思われていますか?
K: そうですね。バリスタという仕事をみんな今ちょっと特殊な仕事だと思っている気がします。僕が思うのは、レストランのシェフやパティシェとなんら変わらないただの飲食、サービス業。でも新しい職業すぎて、ファッション的な捉え方をしてる人たちが多いですね。カッコイイからとかオシャレだからとか、自由だからとか(笑) これを高級レストランに置き換えるとありえない。やっぱり下積みに何年もかかって、朝早くから夜遅くまで働いて、仕込みばかりやらされて。最初は洗い物しかやらせてもらえなかったり。飲食の世界で考えればそれが当たり前なんです。その根本をバリスタの人たちは見落とし気味かと思います。
10年選手と1年選手の価値は明かに違うし、食べたことのないものを初めて口にするお客様は、何年間どこでどんなことを下積みしてきたのかという、作り手の経験で判断してしまいます。さらに様々な情報(紙媒体、WEBなど)も判断要素の1つとして大きく影響していると思います。
今はまだコーヒーだからという1つの独立したイメージをみんな持ちがちですが、一歩引いて見てみると、ただの飲食で、根本はお客様のために美味しいものを提供していく、そのために日々努力を惜しまない、これは至ってシンプルな飲食業の形なんです。
そこが最近になってやっと成熟し始めたバリスタ業。しかしそれに対する目指すべきところってまだ見えてないし、模索している人が多いと思います。なりたいスター像も明確な人がいないのではないでしょうか。そういう意味では、バリスタという職業はまだまだ変わっていくし、より食の見方の本質が必要になってくると思います。
GC: 確かに。野菜や果物なども産地や生産者を明確にし、顔の見えるものを良いものとするという考え方が浸透した大きな食の流れの変化の1つにコーヒーもはいってきたんですかね。
K: 最近よく耳にするシングルオリジンは、昔からあるものですよね。キリマンジャロもブルーマウンテンもシングルオリジンです。慣れ親しんだものへの表現がちょっと変わっただけで、根本は何も変わっていません。発信の仕方、表現の仕方、提供の仕方が変わってきただけだと思います。
震災が起きるなど、世の中が変化するのと同時に、消費者であるお客様の意識も変化します。昔は高かろうよかろうの時代、お金を使う人がえらいそんな時代もあったけれど、今はいかに自分にとって価値のあるお金の使い方をするかですよね。良いもの知っていることの方が価値がある、今はそういう時かと思います。
コーヒー業界の仕掛け方や産地の生産能力の向上はずっと続くものですが、それとお客様の意識がマッチしたポイントこそがきっと今後の変化にもつながるのではないでしょうか。例えばスペシャリティコーヒーって高すぎるよねとか。
GC: 業界だけでなく、働いている人たちの意識、スキルも変化し続けているんですね。例えばファミレスか3つ星レストランのように。一般的なものと高級ラインと二極化している現状もありますが、日本の良いところってなんだと思われますか?
K: 文化によって培った意識、考え方がたくさんあることだと思います。これは食に対する考え方も同じで、素材の味を引き出すために余計なものを排除していく=素材の味を最大限に生かす。まさに「引き算の美学」です。
量やサイズではなく、質の勝負。そこが日本的だと思います。質の向上は歴史でしか語れない。そこにお金を投入してもできないんです。農業もそうですが、1年365日コツコツやった結果を踏まえて、次の年も挑む。すぐにはできないことなんです。生産者もそうであるように、エンドユーザーと関わるバリスタとしても四季とか湿度、気温を1年通して実際に感じないと、見えてこないことは沢山あります。毎日同じことをやることに意味があるのか?という不安や錯覚に陥るのではなく、世の中どんな仕事も同じで、職人としての本質、毎日同じものを作ってる中にいかに今までとの違いを見つけていくか。昨日と先月と去年と何が違うかを感じることが重要で、そのためにはやはり1年を通さないとわからない。ここにしかないものが必要とされる日本の本質。文化や歴史の違う他国とは違うと僕は思います。
GC: 現状日本のバリスタは、その本質をプロとして表現できていると思いますか?
K: バリスタという存在が身近になってきた反面、よく考えてみると、大半のバリスタはマシンオペレーターになりがちで、自分の味を表現しているようで意外と表現していないのではないかと思います。あなたの味がではなく、この店の味が求められがちで、バリスタ一人一人が違う味を表現しているのではなく、実はそのもととなるロースターの数が味の数になっている。そこに3つ星を目指すバリスタは徐々に疑問を抱き始め、一表現者としてそれでいいのかと考える。そういう現状があるからこそ、最近自分で焙煎しようという人が増えてきているとも言えます。
OMOTESANDO KOFFEEのこだわりの味は、どのようにしてつくられるのか…(次ページに続く)