SAYONARA, OMOTESANDO KOFFEE 國友栄一氏スペシャルインタビュー

SAYONARA, OMOTESANDO KOFFEE 國友栄一氏スペシャルインタビュー

SAYONARA, OMOTESANDO KOFFEE 國友栄一氏スペシャルインタビュー

Release Date: Dec 4, 2015

GC: この1年で、日本にも焙煎機を置く店舗やバリスタ兼焙煎士としてやられている方が増えましたよね。その中でOMOTESANDO KOFFEEは自家焙煎されていないのはなぜですか?

K: うちは焼かないと決めています。なぜなら焙煎機を買って次の日からお客様に提供できる美味しい豆はつくれないからです。また1年分の美味しい豆を確保するというのは、僕はとても難しいことだと思います。だから僕は、焙煎はその道のプロにお願いして、僕たちバリスタはプロとして、自分たちの味を表現するためにアフターミックスをしてブレンドに着手しています。日本の職人という職業に対する考え方は、明確なプロによる、明確な分業だと思うからです。何十年もやられている方には勝てません。

 

GC: 今はどちらのロースターさんとお付き合いされているんですか?

K: 小川珈琲さん、ボンタインさん、オブスキュラーさんの3社です。僕は必ずロースターさんに事前に確認することがあります。まずは、豆を買って自分たちでブレンドします。また別のロースターさんの豆とミックスさせることもあります。ということです。うちのしか使わないでほしい、一度にこれだけの量ご注文いただけなければ焼けませんという考えをお持ちのロースターさんも実際にあるのが現状です。

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GC: シングルオリジンの流行りがある中で、アフターミックス=ブレンドをして、自分たちの味をつくり続けるのはなぜですか?

K: シングルオリジンは、ロースターもしくは生産者の代弁になってしまうからです。バリスタとしていい豆を持ってきて提供するだけでは物足りない。先が見えないんです。良い産地の豆をロースターが一次加工して、それを僕たちが仕込んで、調理(ブレンド)してお客様に提供する。その時の豆のコンディションに合わせて、コントロールしながら、試行錯誤してバージョンアップさせていくことで初めてバリスタの存在意義がうまれるんです。

100%アフターミックスに切り変えて3年くらい経ちますが、もちろん始めた当初は自信がなく、お店で使っている豆の1割2割くらいだけに使用していました。

カッピングを繰り返しても何もできなくて、実際に自分で手を動かさないとわからない。当初はMAX1回2キロのボールでシャカシャカしてミックスさせてやってました。でもだんだんやっていくうちに自分たちが味を足したり引いたりできるようになってきたんです。自分の頭で思い描く味がコントロールできるようになってきたんです。その経験があったから今100%アフターミックスにたどり着き、今はフジローヤルさん特注のミキサーで30キロ40キロ一気にブレンドできるようになりました。

 

GC: 今のOMOTESANDO KOFFEEの味はそうやって経験を積み重ねられてやっと辿り着いた味なんですね。その他にもこだわられていることはありますか?

K: 質を下げる要因はできるだけ排除することですかね。素材の構成の仕方もどこまでこだわりをもてるかが重要で、経験と時間を重ねないとみえてこないことがたくさんあります。
バリスタは職人であり、職人のあるべき姿は、自分の持っている一芸で一生飯を食っていくこと。ここまでやってきたら転職したくないですよ(笑)
そのためにはいかに人とは違う、誰もやっていないことをやっていくか、こだわりポイントをたくさん持てるかです。でもうちはそれを焙煎ではなく、ブレンドというところでやっていきたいと思っています。

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さらに自己満足ではなく、いかにひとりでも多くの方に自分の思いを口にしてもらい、できるだけ多くの人のストライクを提供できるか。その考えは色々な経験をしたからこそやっと見えたことです。北欧のライトなコーヒーが好きな人から、イタリアの重い感じのコーヒーが好きな人まで、どんな人にとっても美味しいを提供し、みんなに対応できるようになる。これがOMOTESANDO KOFFEEのスタイルです。バリスタが直接お客様をお迎えして「こちらメニューです。」とご案内し、「お砂糖は入れられますか?」と伺う…これは、バリスタがコーヒーをつくるための準備ですが、このマンツーマンスタイルこそが、その人はどこからきて、どんなコーヒーが好きか、少しでも多くの情報を読みとった上で、少しでもその人にとってベストなコーヒーを出せるかにつながります。カプチーノをつくる技術はあっても実際にどんなカプチーノを求められているか接してみなければわかりません。目の前でつくるコミュニケーション、目の前で飲んでいただく緊張感はバリスタにとっても大切で、一杯一杯真剣勝負、かつ責任であり、一期一会なんです。

うちはサブグラインダーがあるので、もうひとつの豆(いつも使っているものと対局)を用意することで、さらにお客様の選択肢を増やす準備を常にしています。

 

GC: 接客という面でもお客様のストライクゾーンを広げるための努力を欠かさないんですね。
これから海外で展開していく際、クオリティーコントロールの部分で不安はありますか?

K: もちろん。不安はたくさんあります。でも結局人のつくるものなので、やっていくしかありません。経験を積むしかないんです。そこを不安だからとオートメーション化していくと本末転倒。そこから先の進化が見えなくなると思います。

カッピングにとまってしまうのではなく、いろんな種類の豆にいつでも触れられて、ブレンドし調理できる環境があってはじめて、バリスタは努力し、その経験が不安を取り除き、自信になっていくんです。それがお客様に説明できるというサービスにもつながり、明確なオーダーのできるバリスタとして、ロースターと対等にやりあえるんです。

 

GC: 國友さんはこの先のご自身のバリスタ像をどうお考えですか?

K: バリスタとしてあと30年やっていく上で、ジジイになってマシンの前に立っているのも微妙だなと思います(笑)。マシンの前に立たなくても、エスプレッソマシンがなくてもちゃんと給料のとれるバリスタでいなければいけない。腕一本で稼がなければいけない。味を構成する能力、ブレンダーっていうポジションをしっかり確立させることによって、可能性は広がっていくと考えています。

近い将来僕も焼くかもしれません。でもそれは、またお店の豆の1割2割からやっていけばいいと思っています。

 

GC: まだまだご自身も進化し続けていかれるんですね。

K: もちろんです。コーヒーはなくならないし、ということはバリスタもなくならない。それに対応しうるスキルを今から身につけていかないとダメだと思います。毎日カッピングしていてもダメ。あくまでプロとして生きて行くうえでは、努力は続けていかなければいけない。例えば大会で優勝してチャンピオンになったとしても、次の日はいつもと同じように店を開け、一杯一杯コーヒーを淹れる仕事、生活は変わらないんです。そう考えると努力は欠かせない。それがバリスタという仕事だと思います。この人だったら美味しいものつくれるだろと思われる安心感のある職人になれるかが重要なんです。

 

GC: 今度香港で出店されて、そういうバリスタが育っていくことで、またコーヒーシーンの変化があるかもしれませんね!

K: そうですね。大阪にいた時は、いかにイタリアに忠実に味を再現するか必死でしたが、東京にきてから、日本に受け入れられるもの、日本人だからできることをやろうと考え方をガラッと変えました。それは、自分たちの抽出理論、オリジナルスタイルを持たなければやっていけないと気付いたからです。15年前から変わらない基本となる抽出ルールと、変化する産地の技術、豆のクオリティ、マシンの機能。そこに自分たちのオリジナルをもっていきたいと思い、現在では抽出理論からすべて真逆のことをやっています。タンピングはしない、豆の量は少なめ、湯温は下げて、抽出気圧は6、抽出時間は長く…でもそれをやり通すためには、それにあわせた豆が必要で、1つずつ着実にやっていくことで、すべてのパーツが揃い、そしてオリジナルができるんです。

普通と違うやり方に驚くお客様が、実際にコーヒーを飲んでまた驚く。あ、だからこうなんだ。何か違うと。味覚だけでの判断は難しく、目や耳から入ってくる情報の影響力はすごく大きい。そのうえで最後に口に運んだ時、感じる。なんか違う。それでいいと思います。

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GC: そのOMOTESANDO KOFFEEのオリジナルスタイルを海外にもっていく。新境地でチャレンジされるということですね。

K: 自分たちの提供スタイル、抽出理論、素材の考え方、すべてオリジナルであることを日本のものとして扱ってもらいたいです。外国の地で、海外のバリスタに日本式を広めていきます。

 

GC: 純粋に日本のコーヒーショップで海外にいく例って、実は今回が初めてですよね?やっていきたいと考えるバリスタさんも多くいらっしゃいますが、具体的に動かれて次の一手を打たれたことは良い意味でショッキングですね。

K: でもこれは昨日今日思いついたことではなく、すごく時間のかかることで、イタリアに忠実にやっていた頃から始まっていました。今みんな一生懸命アメリカサンフランシスコっぽく、オーストラリアっぽくコピーしているところも多いですが、それでは戦っていけない。本家には絶対勝てないんです。自分たちのスタイルにどうもっていくかが大切で、それがわかったのは僕自身東京にきてからで、7年かかってます。お金があったらできることでもない。なによりもお客様の信頼がないとできない。あそこのコーヒーは間違いない、美味しいよねという味の評価がなければ求められないんです。

そしてお客様の信頼の次は、バリスタのスキル。今まで一緒にやってきた三木と塚本にもバリスタとして生きていく上で、その人にしかできないことをやって欲しいという思いで、こういう環境を用意してきました。経験がないと続かないし、価値がうまれないんです。

香港に出店しても同じで、いかに香港のバリスタたちを自分たちの描いている美味しいコーヒーに同感させるかです。バリスタが思わなければ、お客様は思わない。本質をいかに掘り下げるかが重要です。

 

GC: 香港のどちらにオープン予定ですか?

K: 香港島、湾仔です。2店舗目のカッピングルームのすぐ近くです。1月末オープン予定で準備しています。

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今後、日本国内での展開はあるのでしょうか…(次ページに続く)

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