Release Date: Jun 3, 2016
東京―改築された新宿駅の中心にニューオープンしたVerve Coffee Roasters。Vaughan がオーナーのColby Barr氏と対談をしました。
Vaughan: Colby Barrさん、あなたはVerve Coffee Roasters の共同創立者で生豆の買い付けもされています。この業界で10年間礎を築き、アメリカに7店舗を構え、今こうして初の海外展開を果たしました。東京へようこそ!そしておめでとうございます!どんな気分ですか?
Colby: Vaughanありがとう!信じられない気持ちです!シンデレラストーリーとも言えるかな… ほら、日本は僕の中で憧れの土地としてずっと気になっていたので。今じゃ東京に滞在するだけでなく、その一部として取りこまれたようで… ただただ感激しています。
V: 東京は心から歓迎していますよ。ここまでの道のりは長かったですか?
C: 何年か前にニューヨークでPolerとポップアップストアを企画し、それはそれで素晴らしいものとなりました。一方で、人にはこう言ったものです。次に飛行機でVerveに行くときは、2-3時間って程度じゃなく、もっと長時間かかるところでなくてはダメなんだってね。たしか、「もっと西に飛んでいきたい…日本まで」みたいなことを言っていた気がします。実現するかもわからず、その思いを常に胸に持ち続けていたのだけれど… めでたくこうして夢が叶いました。
V: 「Colby Barrの一日」を教えてください。もしそんなものがあれば、ですが。
C: 僕の一日はめまぐるしいです。サンタクルスにいるときは、波の感じをチェックしながら出勤し、ロースタリーに行ったらいつものカプチーノかジブラルタルを飲むかな… そのあとカッピングラボでコーヒー担当とその朝淹れる予定のサンプルについて確認をし、マーケティング担当と近況の打ち合わせをします。後は、みんなの言葉を借りると「ことに打ち込む」だけです。
V: サーフィンにも打ち込んでいるの???
C: そうしたいけどね。
V: 「Verve」。凄く良い名前ですよね。どうやって思いついたのですか。ひょっとして、バンド「THE VERVE」の曲名『Bitter Sweet Symphony』とコーヒーのほろ苦さにかけて?
C: (笑)。実は、「Verve records」というジャズレーベルからとった名前なんです。この単語の意味が「芸術表現を介した興奮と熱意」という事を知った時、必ずこれを使おうと心に決めたんだ。だって、それがまさに僕らの真髄だったから。
V: 正直言うと、先週の土曜日に豆を買いに立ち寄るまでVerveに来たことはありませんでした。ですが、ネットの記事を読んだところあなたは「コーヒー農園と町のカフェとの架け橋になる」にずいぶん注力されているようですね。このことについて教えてください。
C: コンセプトは、物流体制をもったサプライチェーンです。僕らは農家から豆を出来るだけ直接仕入れると共に、お客様にコーヒーを提供するカフェも持ち合わせています。
こうすることで、生産から消費までの流れを繋いでいます。コーヒーを取り巻くあらゆる経験において、生産者と消費者はそれぞれなくてはならない存在です。農家がなければ上質のコーヒーはできず、お金を出してそれを求めるお客さんがいなければ農家の存在価値もない、といった持ちつ持たれつの関係があるからです。
だからこそ、僕らの役目はその架け橋となり、その過程の経験や商品のできるまでのストーリーを伝えていくことなのです。また、お客さんの声を農家へフィードバックすることで、消費者→生産者の流れを作ることも重要だと思っています。僕らはある意味で「大使」的役割を果たしていると言えるのかな!
V: あなたの旅が始まった10年前の当初、「直接取引」という方法を打ち立てるのはどのようなものでしたか。それを実現できる資本とネットワークを持っているロースターはそうそうありませんよね。
C: 最初から資本とネットワークがあったわけではありません。僕は一年間同僚の家のソファに寝泊まりしていたくらいですから!一から自分たちの手で取りかかりました。当初、周りを見渡すとそんな感じの人たちばかりでしたから、そのやり方に抵抗は無くごく自然なことでした。僕は銀行に貯金が無いにも関わらず、アメリカからは比較的安くいけるコスタリカとパナマへの航空券を買いました。しかしそれは、僕の人生とVerveにとって決定的で重要な意味を持つ時間となったのです。なぜなら、「原点」を訪れたとき、これこそ自分の居場所だと気付いたのです。コーヒーを素材よりも上質なものに作り上げることはできないでしょう。唯一できるのは、素材の質をできるだけ落とさずに提供することなのです。豆が収穫・加工される瞬間、それがどれほど上質のコーヒーとなれるかの運命は決まります。故に、最高の豆を求めて世界中探しまわることは僕らの事業のうちで最も重要な部分なのです。
V: 「フェアトレード」についてもこだわりがありますか。
C: それほどありません。と言うのも、僕らが買うコーヒーがたまたま「フェアトレード」であったというだけの話ですから。 もともと「フェアトレード」とは、協同組合加盟の各農家を守り、最低賃金を保証する為に組織された国際機関です。言うなれば「安全策」なのです。そのため、コーヒー市場が拡大すればフェアトレードも上がり、その逆もまた然りです。しかし、僕らはフェアトレードの平均2.5倍の金額を払っています。特に反対しているわけではないのですが、正確に言うと僕らはフェアトレードでの取引はしていないことになりますね。組合以外のたくさんの農家の方々とともに働いてみて、農家レベルまで掘り下げた取引により僕らのストーリーを伝えることが大事だと実感したことで、そこまでする価値を見いだしています。僕らの農家レベルのモットーは、「倫理観と卓越性」です。これら2つのワードは僕らの仕入れ全般におけるイニシアティブを表しています。
V: ストリートレベルの日本人ゲストたちが、もっとそのようなことやVerveについて感じとり知る為にはどのようにすればいいのでしょうか?
C: 自分たちのしていることをもっとよく伝えられるよう、試行錯誤しているところです。コーヒーがどこからどのような過程を経て消費者の手に渡るのかというストーリーを、人の心をとらえるように語ることは、この業界で最も難しいことです。Verveでは、よく視覚的に語りかけるようにしています。例えばウェブサイトでは、ケニアでの農家レベルのビデオを配信しており、今新しいビデオも制作中です。また、インスタグラムでもたくさんの情報を流し、『Farm Level Digest – Volume 1 Honduras』という題名で本も初出版しました。本の内容は、ホンデュラスでの私たちのプロジェクトについて; 創始者について、僕のカッピングメモなんかも終始紹介してあります。みんながこの本を手に取り、ホンデュラスの土地を感じ、僕らの活動について少しでも理解をし、コーヒーを味わうとともに僕らへの信用が深まったら良いなと思います。コピーをあげるからちょっと読んでみて。
V: ワォ… どれも写真が美しい… Kinfolkを彷彿とさせますね。
C: 実はKinfolkをプリントした人と同じ人の写真ですから。
V: そうなのか、良いですね。
C: 暇つぶしに写真だけを眺めていっても良いしね!(笑)。とにかく、これは君にあげる。
V: え、良いのですか。本当にありがとうございます。今週はずっとページをめくって過ごせそう!
C: (笑)。でも本当にそう!
V: 上質なコーヒーの探求と言えば、最大の魅力は間違いなくカッピングでしょう。「利き酒」ならぬ、「利きカッピング」についてざっと教えてください。Verveで読むまでは一度も聞いたことのない言葉でしたが、とっても納得したのです。
C: 「利きカッピング」は、Verveのポリシーです。コーヒーの種類を知らないままテイスティングをし、後で明かされます。自分の感覚にできるかぎり客観的でいたいのと、自分で入れたコーヒーの善し悪しも自分の舌をもって判断したいから、僕らはこの方法でしか味を見ないのです。あとは、驚かされることが何よりも好きだからです。「えー、てっきりあのコーヒーだと思ったよ。こっちだったかー!」ってかんじで。そうすることで、心を解放し、どんなコーヒーに対しても限りなく正直になれるのです。プロデューサーたちについてもおなじポリシーが当てはまります。あなたにとって親友が真実を打ち明けてくれる存在であるように、お互いに正直でいることは良い関係を構築する上で最重要だと思うのです。利きコーヒー形式でテイスティングをすると、当たったり、当たらなかったりとその時々で波があります。しかし、目的はいつもただ一つ、打率を上げることなのです。
V: 目隠しをするって事…?
C: (笑)。もちろん。ちゃんと目が見えないようにするさ!…冗談だよ。いつものようにコーヒーセットを用意して、ラベルの部分を隠すだけです。
V: ああ、そういうことですね!
C: でも一つ面白い話を聞かせよう。数年前、エチオピア現地最大級の組合工場のカッピングラボに行った時、そこの男性がとても興奮した様子で「さあ、カッピングの準備は良いか?」って。そして突然電気が消えたんだ…僕は停電だと思ったんだけど、その男性はコーヒーの品種を見ないようにするだけでなく、実際に暗闇の中でテイスティングしようとしていたんだ!視覚に頼らないことで客観的になれるし、他の感覚を鋭くできるからね…あの体験は文字通り「盲目のカッピング」だったね!
V: あなたもそれをやってみたのですか?!
C: 若干時間がかかったけど… そう、やってみたよ!
V: 面白い!Colbyさん、コーヒーがあなたの血となり体内に深く流れているのが分かります。味の他に、コーヒーに引きつけられる理由は何ですか。
C: 僕にとってのコーヒーの魅力は、コーヒーの醸造技術を通して様々な発見をすることや、まだ見ぬコーヒーに出会うことに魅せられ、喜びを感じさせてくれるところです。
V: (笑)… 味以外でって言ったのに、やっぱり味のことですね!
C: そうみたいです!だけど同時に僕が言いたかったのは、これが終わり無き冒険と同じように考えられるということです。僕はもともと学びに貪欲な性を持ち、子供の頃の夢は冒険家だったくらい冒険が好きです。その点コーヒーは僕の人生に終わりなき旅を与えてくれているように思えるのです。
V: いいですね… さて、新宿の新しいお店についてお話を聞かせて下さい。まず、世界一大きな駅のど真ん中にオープンしたお店ですよね。いつか、78日間もかけて新宿駅の27K出口を探したという男の記事を読んだことがあるくらいです… 自分のお店にたどり着くのに苦労しませんでしたか?
C: (笑)… 楽勝でしたよ、本当に!お店はとてもわかりやすい場所にあると思います。27Kとは違ってね!
V: 東京ではどのようなカフェ/お店作りを目指していたのですか?
C: アメリカ基準で言うと、この店は中小規模となります。僕らは限られた空間を有効活用しつつも、ブランド独自の色をどうやって出していこうか模索しました。近所の人々にとって身近な存在でありたいという思いから、日頃から多忙な人達向けのものを目指したのです。言うなれば生活密着型コーヒーブランドですので、二つの目的をバランスよく実現させるために綿密に計画を練りました。その結果、Verveの雰囲気はほぼ完全に再現できたと思っています。
V: スタッフの教育には参加したのですか?
C: はい。6人の日本人スタッフ達が2週間カリフォルニアに滞在し、3日間のオリエンテーションプログラムを受講しました。 次に3日間のバリスタクラスがあり、本店にてコーヒーを淹れていました。だから、現地スタッフの時と全く変わらぬ研修内容を受講してもらったことになりますね。
V: 今までに何人雇用し、これからはどのような人材を求めているのですか?
C: もう25人にもなります!採用の際に最も重視するのは、その人の人間性と性格です。というのも、コーヒーの作り方は教えれば誰でもできるけど、他人に心から優しくなることや活発になることを強要するのは無理でしょう。Verveではスタッフを堅苦しく管理はしません。彼らが彼ららしくいられるように自信をつけたいのです。
V: 日本人バリスタ達はどうですか?
C: 素晴らしいよ。日本で目にするもの全てに通じて言えることですが、何事にも丁寧な心遣いが見受けられ、細部にまで配慮が行き届いていて、そして覚えが早いですね。お店がオープンしてまだ3日ですが、彼らの腕前はもう最高潮です。このクルーと一緒に働けて、本当に幸せです。
V: ここでも豆の焙煎をしているのですか?
C: まだですが、直にそうしようと計画中です。
V: では、豆を空輸すると言うことですか?
C: はい。カリフォルニア本店はサンフランシスコ空港に近く、こちらの店舗も都内にあるので、2日もあれば届きます。
V: 近い将来、郊外に住む人がVerveを訪れるようになるチャンスはあるのでしょうか?店舗数拡大について考えていたら教えてください。
C: ちょっとだけネタばらしすると… 追加で新店舗オープンの計画は立てています!次のお店では、地元密着型でVerveのブランド要素やライフスタイルを提案できる十分なスペースが持てたら良いなと思っています。
V: それ以上は秘密なのでしょう…?
C: ….
V: ではもう、広報担当に嫌がらせをするしかないですね!
C: (笑)
V: 日本のコーヒーに対する印象は今のところどうですか?どこかお店に行きましたか?
C: たくさんカフェ巡りをしましたよ。多分、30軒以上行ったんじゃないかな。買いまくったコーヒー豆をアメリカに持って帰るために、巨大な旅行鞄を買う羽目になりました。コーヒーにまつわる細部まで行き渡ったこだわりと職人の技はとてもレベルが高いです。その上サービスも最高です。専門店では何とも言えぬ良い雰囲気が息づいていましたね。
V: 最後に、コーヒー専門シーンのこととなると、シーンそのものはここ10~15年の間に驚くべき変化を見せましたね。日本ではまだここ5年といった話ですが。これから10~15年先はどうなっていると思いますか?
C: たくさんの人がもっとコーヒーにお金をかけるようになっていると思います。その場合でも、僕らの利益に変換するのではなく、良いコーヒーの生産元を探り、農家段階でより上質なものとするため生産者にそのお金を払って意志向上させるべきだと考えています。そうすることで彼らはよりベストな栽培方法に集中できるからです。熟した実だけを摘んだり、2回のところ5回通路を通って重労働をしたり、商業品種より家宝品種の栽培に力を注いだり… このやり方によって、「コーヒー=廉価」という汚名を返上できる気がするのです。
V: Colbyさん、貴重なお時間をありがとうございました!たくさんのVerveのコーヒーと、これからオープンする店舗についてのお知らせを楽しみにしています!
C: 乾杯、Vaughan!
SHOP INFORMATION
VERVE COFFEE ROASTERS SHINJUKU STATION
http://goodcoffee.me/coffeeshop/verve-coffee-roasters-shinjuku-station/
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Translation by Kana Murakoshi (@bx000p)
Photography by Takahiro Takeuchi (@goodcoffeeme)