SPECIAL INTERVIEW with MICHAEL PHILLIPS and HIBIKI FUJIOKA

SPECIAL INTERVIEW with MICHAEL PHILLIPS and HIBIKI FUJIOKA

SPECIAL INTERVIEW with MICHAEL PHILLIPS and HIBIKI FUJIOKA

Release Date: Jul 15, 2016

Good Coffee(以下、GC): マイケルさん、響さん、本日は私たちのインタビューのためにお時間をいただきまして、ありがとうございます。最初にコーヒー業界に携わる事になったきっかけはなんですか?また、今に至るまでの経緯を教えてください。

MICHAEL PHILLIPS(以下、MP): 僕は昔、シカゴを拠点にしているインテリジェンシアで働いていました。最初はコーヒーロースターになりたいと考えながらも、焙煎が行われるプロダクションフロアにいました。しかしこの期間に、僕は社内のバリスタコンテストに参加して、自分はカフェで働くことに興味があると気付き、いろんな大会やトーナメントに参加しました。僕は皿洗いからバリスタ、トレーナー、トレーニングディレクターと長年をかけて成長することができました。それと同時に自分の技術も磨き続け、国際競技会に挑んでみました。そして2009年、アメリカ全土の競技会で優勝し、同時にアメリカの代表に選ばれました。アメリカ代表として出場したWBCでは、総合3位を獲得することができました。そして翌年は、素晴らしい仲間のサポートのおかげで、世界1位をとることができました。

HIBIKI FUJIOKA(以下、HF): コーヒーを始めたのは十年前ぐらいです。当時はまだ今程バリスタという言葉も認知されていませんでした。私もそれほど興味は持ってなかったのです。その頃の夢は彫刻家でした。アルバイトでたまたま働き始めた飲食店に最新のエスプレッソマシンがありました。設備は良かったのですが、きちんと扱う事の出来る人間がいなかったのでもったいないなと感じていました。研修でバリスタの方が作ったカプチーノが印象的で、その後、空いた時間に見様見真似で独学で練習を始めたんです。当時の目標はイタリアのバールでエスプレッソを淹れるかたわら、大理石で彫刻を彫って生活したいでした(笑)。ブルーボトルコーヒーで働く事になった経緯は、京都で仏像や寺、お茶など長く続いている文化に触れて、コーヒーも長く続く文化にしたいなと感じたんです。少しずつ広がってはいますが、日本ではまだまだコーヒーを日常的に嗜む環境にはなっていないので、それを大きく動かせるのはブルーボトルコーヒーしかないと思い働き始めました。可能性を感じたんです。また、前職のカフェに創業者であるジェームスが来店した際にコーヒーを提供した事があり、彼がその事を覚えていてくれた事も働きたいと思った理由です。

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GC: お二人のブルーボトルコーヒーでの典型的な1日の過ごし方を教えてください。

MP: 僕の毎日には一貫性があると思います。僕は仕事で1年のうち200日はチームで様々なエリアを旅しています。ある日は、ニューヨークやオークランド、東京にいるチームのみんなと丸一日ミーティングをしています。また別の日はLAにあるラボで、新しい器具のチェックをしたり、自分たちのトレーニングカリキュラムのアップデートに取り組んでいます。時には、創設者のジェームス・フリーマンとテイスティングをすることもあります。変化に富んだ自分の仕事が大好きだし、新しい発見にいつもわくわくしています。

HF: 僕はまず、朝起きて猫に挨拶をします。白湯を飲んで朝食を軽く済ませ、清澄白河に向かいます。家が遠いので通勤中は読書をしたり、気になる事を調べたりアイディアを考えています。最近では日本に昔からある果物を使って何かドリンクが作れないか考えています。店舗に早くついたらコーヒーを飲みます、大体カプチーノかドリップコーヒーを飲みます。チェックしている訳でなくシンプルに飲みたいんです。その後はトレーニングプランを考えたり、バリスタのトレーニングをしたり、日々アップデートされる事は多いので、それらを資料にまとめたりしています。

GC: ブルーボトルコーヒーの文化について教えてください。

MP: ブルーボトルコーヒーでの日々はとても素晴らしく、僕の社会人キャリアの中で最も過ごしやすい環境だと思います。ブルーボトルコーヒーは、他のコーヒーロースタリーでは見たことが無いほど、人材育成に重点をおいています。僕はバリスタの育成やトレーニングを担当していますが、トレーニング部門が人事部に所属していることから、バリスタトレーニングだけでなく人材育成全般においてブルーボトルコーヒーが企画し、実践する制度はとても先進的で興味深いものだと感じています。

HF:学べる環境だと思います。コーヒーだけでなく人間的にも大きく成長させてもらっています。チャンスがあればバリスタからでも様々なポジションにキャリアアップができ、バリスタとして働く環境としてはなかなかない環境です。

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GC: ブルーボトルコーヒーについて、世間では知られていない事で、私達が驚くような事を何か教えてもらえますか?

MP: ブルーボトルコーヒーが、サスティナビリティにどれだけ貢献しているかは、皆が気付いていないことかもしれません。僕たちは、どんなコーヒーを買うのか、どんなパッケージを使うのか、環境に配慮があるか、スタッフ皆でどうあるべきかを日々たくさん話し合っています。コーヒーの質や、サービスの向上ばかりを追い求めるあまりに、環境への配慮を忘れてはいけないと思っているからです。

HF: 伝えたい事はたくさんあるのですが、バリスタ目線の秘密を一つ教えます。ブルーボトルコーヒーではお客様の飲み頃や飲むペースなどを考え、カップの形状やサイズによってミルクの温度を変化させています。マキアートやジブラルタルはすぐ飲みきる量です。お客様が手にした瞬間がベストな状態になる様、ミルクの甘みを感じる温度帯で低めの温度でお作りしています。カフェラテはミルク量もしっかりあるので飲むのに時間がかかるので少し高めです。ミルクの甘みは60℃を超えたあたりから感じにくくなってしまいます。一般的な温度よりは低いと感じるお客様は多いのですが、コーヒーとミルクの甘みが合わさるとお砂糖を入れなくても甘いカプチーノやカフェラテになるんです。フォームもドリンクによって変えています。ジブラルタルは飲み口がシャープで、高さのある形状のカップなのでフォームは薄めに作っています。厚めのフォームだと泡を重たく感じてしまうからです。To Goカップも同様です。トレーニングでは泡の重さを計測したり、温度を計測したり、一貫したドリンクが作れる様にトレーニングしています。お客様にはブレンドとシングルオリジン等のご案内だけでなく、シチュエーションに合わせてご提案できるように今後も努めて行きます。

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GC: コーヒーの味以外でみなさんがブルーボトルコーヒーに魅了される事はなんですか?

MP: “ハンドメイド”の正確さや伝統的なスタイルに惹かれています。僕たちは、このとても難しいハンドメイドというものを完璧に実現することにチャレンジしていて、それを更にスピード感を持って、今まで誰もチャレンジした事のない大勢のチームで実現する方法がないのか、を追求しています。その僕たちの目標を達成するには、たくさんの練習と、良質なスタッフ、正しくデザインされたお店や良い道具などが必要です。このゴールに向けては、全てが揃って初めて叶うといっても過言ではありません。とても楽しくてワクワクする仕事です。

HF: ブルーボトルコーヒーにはデリシャスネス、ホスピタリティ、サスティナビリティという軸があります。ホスピタリティはいうまでもなく、働いている人たちの人柄の良さでしょうか。去年USに行った際、ものすごく親切にしていただいて感動しました。環境に配慮した取り組みも推奨しています。コーヒーショップは個人的に資材をたくさん使用するイメージがあったのですが、ブルーボトルコーヒーでは、カップやリッドも環境に配慮した素材の物を使っています。そうした取り組みに幼年期から環境問題に敏感だった私は魅了されています。今のトレンドだけを追う訳でなく、クラッシックな事も大事にしているので、お客様にとっての選択肢が多いのも魅力的です。

GC: 最近のコーヒーショップに見られる特徴で、これから主流になってくるものはどんなものがあると思いますか?

MP: コールドブリュー(水出しアイスコーヒー)には特にみんな注目していますね。というのも低温抽出というのはコーヒーの独自のジャンルを生み出すかもしれない、とても革新的な製造工程なんです。僕たちはNOLAでコールドブリューをしばらく使っていたんですが、最近はブラックコーヒーのコールドブリューに磨きをかけてるところです。OJIも同様にもっと良いものにしようと力をいれています。これからたくさんのカフェがこの低温抽出の手法にもっと注目し始めると思います。

HF: はい、マイケルが言ったとおりコールドブリューはこれからの熱い季節には最適ですね。USではだいぶ前から導入されていますが、ビールで使用するサーバーを用いたアイスコーヒーは日本でも増えるのではないでしょうか。

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GC: 自分の技術を磨こうと熱心に頑張ってる若いバリスタ(そして若いロースターもまた)が日本にはたくさんいますが、彼らにどんなアドバイスしますか?

MP: 1番大事なのは、疑問を持ち続けることです。コーヒー業界にも、何かの手法において、正しいやり方は1つだけだと考えている人たちがいますが、そういう時代も変わってきていると感じます。何かを学ぶということに終わりはないですし、常識とされてること客観的にをに見て疑問を抱き続けるのは、とても重要なことだと思います。

HF: バリスタとして働いていくとクセがついてきます。理論や意味を考えて無駄な事はしない様にと、伝えています。良い職人は無駄な動きがなく洗練されています。ダスターのたたみ方や配置、細かい所までフィードバックします。あとは明確なイメージを持つ事や自信を持つ事です。美味しいコーヒーのイメージがないと美味しいコーヒーが淹れられる事は絶対にないでしょう。闇雲にやらず、なぜこうして、こうなったかを頭で理解してもらいます。それが自分の中で形になるまで楽をさせません。

GC: 前の質問に関連しますが、何が“優秀なバリスタ”を育てる鍵だと思いますか?また、コーヒーを作っている時は、どんなところに注目して見ていますか?

MP: 良いバリスタは、細かな要素も見逃さず全てをよく見て、注目しています。その観察で得た情報によって、自分の行動を変化させることができるのです。コーヒーを作るときには、そのカフェで起こる全てのことをしっかりと見ていないといけません。例えばお客さまの動きだったり、自分のつくるコーヒーだったり。お店の中で起こっていること全てをしっかりと見て、考えて行動しないといけません。お店からお客さんまで、一杯のコーヒーに関わる全てを一番しっかり観察してる人が、本当の良いバリスタなんだと思います。

HF: スピード、一貫性、クオリティも大事ですが、まずはクレンリネスを見ます。バリスタのステージであるバーの中が汚れているのは問題外です。美味しいコーヒーを使っているので美味しいのは当たり前なので、個性も大事だと思います。ブルーボトルコーヒーでは一貫性を大事にしているので個性を出しにくいと感じる人もいるかもしれませんが、洗練された技術の先に個性は宿ると感じています。個性とは表面的なものではなくて、もっとコーヒーのフレーバーの様に複雑です。

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GC: コーヒーについてお二人のようなプロの考えることと、お客さんたちが考えていることの間にギャップはあると思いますか?もしあるとしたら、その専門家の考える”本物のコーヒー”をお客さんにどう説明してそのギャップを埋めようとしますか?

MP: ブルーボトルコーヒーのような規模の会社になると当然、自分たちの基準を同じように話す為に、社内で共通言語のようなルールや基準はあると思います。ただ、専門的なことをゲストに説明する努力も少しは必要ですが、僕が思う良いサービスというのは、専門的なことを知らなくてもお客様がお店で有意義な時間を過ごせるようにすることなんじゃないでしょうか。そして、その役割を果たすのが僕たちの責任でもあると思っています。ブルーボトルコーヒーでは、コーヒーの知識がある人はもちろんのこと、より深く学びたいというお客様にも満足してもらえるようなサービスを目指して、努力を続けています。

HF: 僕の場合は、お客様がどこまでを知りたいのかを見極める様にしています。スペシャリティーコーヒーだからこういう風に楽しんでほしいという思いはありますが、普段はどんなコーヒーを飲んでいるのか?どんなシチュエーションで飲むのか?どんな人が飲むのか?お砂糖やミルクを使うのか?など会話からヒントを得てご提案しています。まずは気軽にコーヒーを楽しんでもらって、それがきっかけで広がって行けば良いかと思います。ブルーボトルコーヒーに限らず、たくさんいいお店が増えているので提供したコーヒーがきっかけでコーヒーが好きになってくれたらうれしいです。

GC: お二人はこのコーヒー業界でたくさんの素敵な経験をして、多くの魅力的な人々に出会ってきたと思いますが、その中で何か忘れられないエピソードはありますか?

MP: 2010年にコスタリカのドタ・バレーにあるコーペドタ(ドタ生産組合)を訪れた経験は忘れられません。遥々電車に乗って、その年のコスタリカ国内のバリスタ選手権を見に行ったのですが、その大会のいろんな側面に僕はとても驚かされました。その組合団体はしっかりと運営されていて、何よりコーヒーの種類が、僕がこれまで見たことのないくらい豊富で、どれも素晴らしかった。当時多くの人はもしかするとコスタリカでのコーヒーに期待していなかったかもしれませんが、この旅で僕が見た光景はそういった本当に素晴らしいものでした。

HF: 僕の場合は、お客様との思い出がたくさんあります。提供したコーヒーがきっかけでコーヒーを飲める様になったとうれしい言葉を頂いた事もあります。海外のお客様で年に1回しかいらっしゃらないお客様もいたり、でもお互い顔を覚えていて言葉は通じないけどそれが分かるんです。昨日と同じでカプチーノ?みたいなやり取りが好きですね。あとはもともとお客様だった人が、バリスタとして活躍している事も増えてきたのでそれが最近ではうれしいです。青山カフェのオープンの時に、ジェームスと大坊さんの対談があったんです。そのときは青山のリードバリスタとして働いていてエスプレッソを頼まれお出ししたのですが、オーダーが変わっていてとても印象に残っています。一番濃いモノを飲めば本質が分かるという意図で頼まれた30gの粉のエスプレッソを提供したのは今でも忘れられません。

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GC: 最後に、お二人のお互いについてのコメントをいただけますか?

MP: あなたが初めて響に会ったら、すごく真面目で厳格、そして物静かな人だと感じるのではないでしょうか?その側面も彼ですが、それ以上に向上心があり、すごく熱い人だということも分かってくると思います。我々のコーヒーの業界で彼のようなプロフェッショナルな人を見つけることは珍しいです。

HF: マイケルは優れたバリスタでありながらも、広い視野で全体を見通せるサービスマンでもあります。日本とアメリカの違いはありますが、視点や考え方が私の考えるバリスタ像と近いので本当に驚きました。常にユーモアがあって、シリアスな場面でも場を和ませてくれます。学ぶ所が多い偉大な先輩です。

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Information

ブルーボトルコーヒーでは現在、バリスタを募集しています。詳細は以下をご覧ください。

https://bluebottlecoffee.jp/careers

 

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Translation by Natsumi Miura (@smrcoca)

Photography by Takahiro Takeuchi (@goodcoffeeme)

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